自分にあった学び方を選ばせて!~学校教育へのデジタル教材導入をめぐって

発達障がいとデジタル教材
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発達障がいなどで読み書きが苦手な小中高校生に対して、デジタル教材の普及に文部科学省が動き始めています。
2016年3月5日の朝日新聞の記事では「馳浩文科相が4日の参院予算委員会で、4月以降にニーズを把握し、教科書会社に対し、作成への協力を検討してもらうため協議する方針を示した」とありました。
発達障がいの子どもにとってデジタル教科書の活用は福音となるのでしょうか。

学習障がいをもつ中学生のスピーチをご紹介しながら、教育現場へのデジタル教科書の導入について考えます。

学習障害のある中学生の松谷くんの抱える困難

2014年の秋に東京都内で開催された【TED×Kids@Chiyoda】というプレゼンテーションイベントで、学習障害のある中学1年生の松谷知直くんが「自分らしく学べる学校へ」と題してスピーチしました。
松谷知直「自分らしく学べる学校へ」TEDxKids@Chiyoda(Youtube)
学習障がいを持つ松谷くんは、字を書くことや読むことに対して苦手意識を感じていましたが、あるテクノロジーと出会ったことで、皆と同じペースで学習できるようになりました。

iPad

iPadは写真を撮ったり、写真を撮って拡大したり、インターネットに繋いだり、絵を描いたりすることができる道具です。僕は実を言うと、字を書くこと・読むことがとても苦手で、そしてiPadは僕にとって教科書であり、ノートであり、鉛筆であり、消しゴムです。

赤いレンズのメガネをかけている

この赤いメガネをかけているのもそのためで、このメガネをかけないと、文字がこんなふうに見えます。

崩れている文字

筆記については自分の名前を書くのも間違えるほど苦手だといいます。

自分の名前

この中には3箇所間違いがあります。これもいたって真剣に書いているものです。ふざけて書いたりはしていません。もちろん、僕はiPadを使い始める前は、紙と鉛筆で勉強していました。ですが、みんなと同じようにできなくて、自分には価値がないとずっと感じていました。

日本の教育は人と同じように出来ることが目標になっている教育です。
「目をあわせて挨拶できること」「朗読は自信を持って読み上げられること」「綺麗な字でノートをとれること」「みんなと協調して参加すること」。これらのことが評価されます。

多くの生徒は努力すればできることです。しかし、それが努力してもできない発達障がいの生徒は「どうしてできないの?」「もっと頑張りなさい」と言われがちです。
彼らは「少し変わった子」「できない子」だとネガティブに評価されてしまいます。

発達障がいの子どもの経験する苦しさ

人と同じように出来ることが目標となる教育の中で、「ジッとしていなきゃ」と思っても体が動いてしまう子どもや、教科書が読めない・読んでも意味がわからない子、文字が書けない子どもたちの不安やストレスは相当なものです。
これらの原因を考えずに、努力をすれば出来るはずだと考えることには無理があります。

そんな僕のために、お母さんがいろいろ計算ドリルとか、漢字ドリルとかいろいろ作ってくれていました。でも、5年生の時に、どうしても勉強する量も多くなってきて、限界をむかえてしまいました。

デコボコ君の自己否定
松谷くんは不登校になってしまいました。
その後、お母さんがFacebookで見つけた「DO-IT Japan プログラム」という、障害や病気のある子どもたちの進学と就労を支援するプログラムに参加して松谷くんはiPadと出会いました。
「これだったら勉強ができる! 作文が書ける! 本が読める!」と思ったそうです。
そして、自分の学習障害のことやiPadについて夏休みの自由研究にまとめました。

教科書や教材、教育の受け方をもっと選べるようになればいいと思います。そして、教科書や教材はデジタルや紙媒体などから選択でき、僕のように読み上げ機能やキーボード入力が必要な人はデジタルを、さっと広げて学習したい人は紙を、というように、自分にあった媒体を選べるといいと思います。

自分にあわない勉強方法のせいで「自分には価値がない」と思って不登校になってしまった松谷くん自身の経験から、生徒一人ひとりに応じた教育のあり方を提案しています。

なぜデジタル教科書が必要なのか?

本を読めなければ本を聞けばいい

「頑張れ!」だけではどうしようもない子どもたちに対して、励ましや叱責ではなく「じゃあどうするか?」という技術を示せる教育が求められています。
教育上必要な配慮を提供することは、これからの教育サービスの重要な役割です。

大人の人にお願いしたいことがあります。「もっと頑張ったらできるんじゃないの?」とか「なんでできないの?」とは言わないでください。「なんでできないの?」それがわかっていたら、僕たちはこんなに苦しい思いをしてこなくてもよかったと思います。

「なんでできないの?」ではなく「どうやったら一緒にできるようになるか、一緒に考えよう!」って、僕も言ってほしかったです。読み書きを頑張らせることで、学ぶ機会を奪わないでください。

自分で読み書きをすることも大切な事ですが、読めることにこだわるよりも聞いて理解するのではダメでしょうか?
書けなくてもいいから別の方法で記録を取るのはズルいのでしょうか?
方法に囚われて本来の教育の目的を果たせなければ本末転倒です。
そうならないために、発達障がいの子どもに必要な学習方法や教材を取り入れることがデジタル教科書を導入する理由です。

「ユニーク・インテリジェンス」を引き出す教育へ

均一化社会の中で居心地の悪いデコボコ君松谷くんが参加した「DO-IT Japan プログラム」を主催している東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授は『発達障がいの子どもの「ユニーク」さを伸ばすテクノロジー』という本の中で、以下のような文章を書いています。

「これまで、教育効果のない子どもたちへは、特別な治療が必要であり、努力が必要だと言われてきました。私は治療や精神論を否定するものではありません。しかし、精神論だけでは子どもは遅れる一方です。子どもたちに与えられた時間には限界があります。その時間の中でいかに能力を発揮できるかは親や用紙の考え方次第で決まってきます。これからの時代「人と同じであるべき」という観念にとらわれずに「形にこだわらず個々のユニークな才能を引き出す」という新しい視点が求められるに違いありません。(p.115-116)」

多様な学び方が認められる教育を求めて

みんなちがってみんないい
学習障害の子どもがデジタル教科書を使って学ぶことができる環境を整えることは、教育場面での合理的配慮そのものです。
画一的な教育方法では取り残されてしまう子供がいます。
どんな子供も能力を発揮できるた多様な教育のあり方のひとつとして、デジタル教科書が必要とされています。

近い将来、紙に書いて勉強する子とiPadで勉強する子が机を並べて授業を受ける姿が「当たり前」になるのかもしれません。
多様性を認める教育づくりは、学校づくり、地域づくり、そして社会づくりのきっかけになるのではないでしょうか。

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《この記事の参考にさせてもらった資料》
朝日新聞「発達障害児向けデジタル教材、文科省が普及へ」(2016年3月5日)
松谷知直「自分らしく学べる学校へ(Never give up on learning by yourself)」TEDxKids@Chiyoda
DOIT-Japan
・中邑賢龍『発達障害の子どもの「ユニークさ」を伸ばすテクノロジー」(2007)中央法規
・中邑賢龍.魔法のプロジェクトに参加した先生たち『学校の中のハイブリッドキッズたち~魔法のプロジェクトを通して見えたICTと子どもの能力・教育の未来』ココロリソースブック出版会

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